日野自動車は、海外向けにHS系の後ろまで床が低いフルノンステップの大型路線バスシャーシを展開しています。また、この記事では日本でフルノンステップバスが普及しなかった理由についても解説しています。
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シャーシ本体 |
HS系は、日野自動車が海外向けに製造する大型路線バスシャーシです。現在は台湾とフィリピンで販売されており、どちらも後ろまで床が低いフルノンステップのみの設定となっています。車体製造は現地のメーカーにより行われているため、販売国により車体デザインが大きく異なります。前後のアクスルやトランスミッションはZF製であり、車輪のハブの形状が日野車で一般的に使われているものとは異なります。
日野フィリピンでは、このHSがフルフラット構造であることを売りにして現地で販売されている他社製ノンステップバスとの差別化を図っているようです。
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フィリピン仕様 (画像はCarmudi Philippinesより) |
【スペック(現行)】
全長(台湾):11.7m
全長(フィリピン):12.2m
ホイールベース:5,875mm
車両総重量(台湾):16.3t
車両総重量(フィリピン):18t
エンジン(台湾):A05C-TL(5123cc、直列4気筒、最大260ps)※Euro6規制適合
エンジン(フィリピン):J08E-WD(7684cc、直列6気筒、最大280ps)※Euro4規制適合
トランスミッション:6速AT
A05C、J08Eともに国内向けトラック、バスで実績があるエンジンです。
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前中ノンステップバスの車内の例 後部は床が高い (日野ブルーリボンシティハイブリッド) |
フルノンステップバスは、日本などで一般的な後部が高床構造の前中ノンステップバスとは違い、後部まで低床、つまり低床かつフルフラットなバスのことで、主にヨーロッパで使用されています。日野自動車も、日本でノンステップバスが台頭し始めた当初はフルノンステップバスを日本でも販売していました。
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日野ブルーリボンシティのフルノンステップ仕様 (画像はWikiより) |
しかし、床が低い故にタイヤハウスの出っ張りが大きく、通路や座席の確保の面で不利が生じます。また、低床スペースを極力確保するために、タイヤ間の部分を低く抑えたセンタードロップ式アクスル(車軸)を始めとした特殊な足回り部品を使用しており、これがコスト高の原因となっています。一方、前中ノンステップバスでは、足回りにおいてトラックと共用する部品の割合をフルノンステップバスよりも高くでき、コストを抑えることができます。
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フルノンステップバスに使われるセンタードロップ式リアアクスルの例 (ZF AV133) AV133の場合、左側にプロペラシャフトと接続する入力軸がある。 |
このような欠点を抱えることから、日本ではフルノンステップバスが普及せず、バリアフリー性や収容能力、コストを両立できる前中ノンステップバスが一般的となり、国内バス市場からフルノンステップ車は消えてしまいました。都営バスが近年に再びフルノンステップ車を入れていますが、日本製ではありません。
しかし、いすゞではレイアウトの自由度が高いというEVのメリットを利用して、フルノンステップのEVバスを開発しています。
余談ですがノンステップバスという呼び方は和製英語であり、英語圏ではlow-floor bus(低床バス)と呼ぶのが一般的です。